3・最初のピンチが、最初のチャンスに
　私達二人だけの「在宅ケア」は長く続きませんでした。
　平穏な『在宅ケアらしさ』は、数年で破綻しました。
　1992年、私だけでの介護の最初の失敗は、最初のピンチを招きます。物忘れが中心の軽症の時期でも、『徘徊』は起こりました。すでに病気が進行していて、放置しておけない警笛でした。
　私の土曜と日曜だけの、手探りの介護だけでは不十分でした。妻は既に、｢24時間フルタイムケア」を必要としていたのです。火曜から金曜までの5日間は、私は、仕事に出かけていました。その間、妻は一人で暮らしていましたので、寂しかったに違いありません。
　当時の妻は、物忘れに加え、孤独による不安、抑うつ、被害妄想、が見られました。その上、生活意欲をなくして「死にたい、死にたい」を口にしていました。それに加えての「徘徊」です。
　病気の進行を速める結果になりました。もう一人にして、放置しておけなくなりました。最初の大きなピンチでした。

1992年当時の君子の面影です。外見からは健康そのものでした。

記憶の錯誤による徘徊
　1992年発病して4年目のことです。
　私達は、子供がまだ小さい頃は、京都の吉田に住んでいました。そのころの親しい人から、私に「奥さんがおかしい。すぐ迎えに来い。」と電話で知らせがありました。

　徘徊要因は、記憶の錯誤でした。
　親しい友達同士の懇親会の通知が、「はがき」で知らせてきたのに、わざわざ家まで訪ねて来てくれたものと錯覚したようでした。訪問目的は、お礼に伺ったようでした。
　生憎、訪ねた友達が不在でした。外国への旅行中であったため、騒動になりました。
　吉田の人々は、用件が理解できず、妻に「私が誰だか分かる」と訪ねても分からんといいます。
病気だと気がつかれ、対応に困られ、ご迷惑をかけました。そのとき、吉田の人々からは、「目を離したら、あかん」「しっかり見守れ」と、私に釘を刺されました。

今度は私を捜しに
　最初の大きなピンチでした。
　私は、とうとう来る時が来たと退職を決意しました。1993年、発病して5年目のことでした。
　最初の徘徊から数ヶ月の頃。私の勤め先である堀川病院まで、「お父さん」と捜しに来ました。
　私達の家は岩倉にあります。病院は西陣ですので、距離にして約8kmもあります。
　何処をどう歩いてきたのか、目が据わり、表情も硬くなっていました。　妻は、もう自分の力では、タクシーにも、バスにも乗れなかったようです。
　私は仕事を終え、一緒に帰りました。
　ところが、その後も同じことが繰り返されます。途中、道を間違えば迷子になります。道路も車が多く、危険です。
幸いにも最初のピンチは、最初のチャンスになりました。
　最初のピンチは、滋賀県の草津にいる、娘とその家族の協力が得られ、火曜と木曜の午前11時から、午後5時半まで「見守り」をしてくれました。1992年からですから、今年で11年になります。
　娘とその家族には、心から感謝しています。

　続いての大ピンチです。それが幸運にもこのときが、京都福祉サービス協会を訪ねるきっかけになったのです。協会は、ホームヘルパーの派遣を了承してくれました。
　1993年3月からは、月曜・水曜・金曜の午後2時から5時まで、一日３時間。ホームヘルパーさんの「見守り」契約による派遣が成立しました。妻を孤独にさせることなは、、兎に角「フルタイムのケア」が初めて確保できました。

　幸運にも、天使のようなヘルパーさんに恵まれました。
　妻はその日以来、生まれ変わったかのように「楽しく、明るく、活き活き」するような、数年を過ごすことが出来ました。
　私は妻の介護のために、仕事を縮小して行きますが、幸いこのときは必要ありませんでした。

　介護のイロハを知らなかった私には、このヘルパーさんとの出会いが、大きな救いとなります。
　介護のイロハを教わり、私の介護観が一変し、次々と幸運を呼び込むことになります。ヘルパーさんには感謝、感謝です。
　ヘルパーさんは、事業所の都合で交代されますが、幸い素晴しい人ばかりでした。2000年の介護保険に変ってからも、引き続きお願いしています。
2006年9月13日更新
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